Rendezvous in Black 喪服のランデヴー[発掘]

コーネル・ウールリッチのブラックシリーズ最後の小説です。ウールリッチ(アイリッシュ)は日本ではヒッチコック『裏窓』の原作者って言うのが一番わかりやすいんでしょうか。映画と原作全然違うけど。今となっては古いところもありますが、たぶんウェットなノワール・悪役好き・不幸物語に感情移入の要素が好きな人ははまる作家です。というわけで私の好みのど真ん中です。ウールリッチは学生時代にいろいろ読みましたが、その中でも今回の『喪服のランデヴー』が一番好き。

けどAmazon.co.jpのレビュー見たら、暗い・重いであんまり高評価じゃなかった…。陰鬱で救いがなさすきるところがいいのに、そういうのは世の中受けないんでしょうか。まあノワールとか廃れてる辺り、大衆受けじゃないのは言うまでもないと。王道ベストセラー作家のクーンツ先生も、物語はハッピーエンドで終わりにしろとか、正義の味方を出せとか言ってますが、ある意味ウールリッチは正反対だもんね。

ちなみに今回『喪服のランデヴー』を検索したらドラマの方ばかり出てきてましたが、原作ファンとして私も昔のNHKのドラマも2000年の初回と2002年の再放送時の二度見ました。ただウールリッチ作品に重要な『不幸に感情移入』の要素がイマイチ欠けてたり、復讐される加害者たちが悪意をもって犯罪してるところが原作と大きく違ってたり(これだと不条理感が出ないじゃん)、学生運動ネタが世代が違うこともあり全く感情移入できなかったので、藤木さんカッコよかったよねってだけの感想しかありません。二回見といてそれかい…。まあ小説そのままだと重くて受けないからこその改変だったのかもしれませんが。ラストも原作と違って救いがある話(?)になってたし。

喪服のランデヴー (ハヤカワ・ミステリ文庫 ウ 1-1)  Rendezvous in Black (20th Century Rediscoveries)

そんなわけで小説です。一番好きなこともあり、ウールリッチの中では唯一、翻訳版だけでなく原書のペーパーバックの両方持ってます。原書も文章が美しいとか言われてたからね。と言っても英語の方を読んでても日本語でストーリー覚え切ってるから、読んでるふりにしかなってません。

二人は毎晩八時に逢った。雨の降る日も雪の日も、月の照る夜も照らぬ夜も。
They had a date at eight every night.
If it was raining, if it was snowing; if there was a moon, or if there was none.

幼馴染で唯一最愛の恋人ドロシーとの結婚の日を目前にしたある晩、主人公ジョニー・マーがデートの待ち合わせ場所へ急ぐと、彼女は死んでいた。頭上を通り過ぎた小型飛行機の乗客が投げ捨てた壜が頭に当たったから。――って一歩間違えばギャグみたいなシーンから始まります。その飛行機の乗客を探し出し、順に彼らの最愛の女性を奪って復讐するって話。

主人公が犯人で動機も最初に明かされてますから、物語はいかに復讐を遂げるかの個々の物語に焦点が当たってます。本人たちも知らぬ間に加害者になってしまった乗客の男たちのストーリー、主人公が復讐のために彼らの最愛の相手である被害者女性に近づいていく過程、それぞれの事件が連続殺人だと気づいた刑事との対決と、失った恋人との幻の再会――

どんな気持ちか分かっただろう。
Now you know what it feels like.

近づいて目的を達成するまでの被害者女性との親密さと、その後の淡々とした冷たさの温度差に、主人公の揺るがない狂気と執念が見えて、彼がどれほど死んだ恋人を愛していたかが分かる。サスペンスであると同時に悲恋の物語です。なので、トリック的には日付変更線がーとか、破綻箇所も過去に散々指摘されてますが、そんなのどうでもいいのだよ。とにかく切なくて登場人物の想いに感情移入する話だから。

  
ウールリッチは他の作品も似たような傾向があって、話の筋は無理があったり破綻してると言われてるのも多い。個々の短編エピソードが連なって長編になっている物語も多いし、似たような話ばかりなんてのもよく言われます。そして王道の推理・ミステリー小説ではなくて、どちらかというとエモーショナルな要素で惹き付けて読ませるサスペンス作家です。だから読者は世界観に浸って雰囲気と登場人物を楽しめばいい。――という点ではアメドラと同じです。むしろちゃんとオチがついてるだけアメドラよりはましだとか、失礼な言い方でフォローしてみたり。

けどそこまで書いて、自分でもどうして両者が好きなのか改めて発見したよ。

ちなみにウィリアム・アイリッシュ名義の『幻の女』の方は、ちゃんとした推理小説でウールリッチの代表作ですが、あのオチは反則じゃないのかなと思ったり、幻の女の帽子のビジュアルが気になったりして、全然感情移入できませんでした。黒のシリーズの方が好き。